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東京高等裁判所 昭和32年(ラ)490号 決定

抗告人 稲舟茂男

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告理由は別紙「競落許可決定に対する抗告理由書」と題する書面に記載のとおりである。

よつて各抗告理由につき審査するに、

一、一件記録中の登記済権利証(第九丁以下)および登記簿謄本(第三二丁以下)によれば、昭和三十年十二月二十三日抗告人は坪田弘(本件競売申立人)から金百十万円を弁済期昭和三十一年二月二十一日利息年一割五分その弁済期元金の弁済期と同じ、期限後の損害金百円につき一日金九銭と定めて借受け、本件建物に第一順位の抵当権を設定した事実明かであるから、坪田弘が右抵当権にもとずいて本件競売の申立をなし、原審が競売手続を実施し競落を許可するも、これを目して憲法その他の法律に違反したものとはなし難い。

二、一件記録に徴すれば、原審において本件競売期日を昭和三十二年七月十九日午前十時競落期日を同年七月二十日午前十時と定めその旨の公告をなし、右昭和三十二年七月十九日午前十時競売を実施したが、右競落期日においては、次回期日を同年同月三十日午前十時に延期し、同日本件競落許可決定を言渡したところ、右競落期日の変更については、これを公告しなかつたこと明かである。

民事訴訟法第六百五十八条に規定するいわゆる競売期日の公告には「競売期日の場所及び日時」とならんで「競落期日の場所及び日時」を具備すべき旨規定し、そのこれを変更する場合につき特にその取扱を異にすべき旨定めた規定はないが、競売期日の公告は多数の競売申込人を誘引し、公正なる競買価額を獲得しようとする目的に出でたものであり、競落期日の公告は単に利害関係人をして競落期日に出席しその意見を陳述するの機会を与えんことを目的とするものであつて、その目的およびその告知の対象たる人的範囲を異にし、前者の変更についてはその目的を達するため必ずこれを公告することを要するに反し、後者の変更については単に利害関係人にその旨を通知するを以て足り、敢えて公告を必要としないものと解するのを相当とする。更にこれを抗告審において競落許否の裁判告知の日を公告することを要しないことに鑑みるも、また競売裁判所において競落期日の変更をする場合これを公告するの要がないことますます明かである。この点の抗告理由は採用し難い。

その他一件記録を精査したが、原決定には何等違法の点がないから、本件抗告を棄却し、抗告費用を抗告人に負担せしめ、主文のとおり決定した。

(裁判官 渡辺葆 牧野威夫 青山義武)

別紙

競落許可決定に対する抗告理由書

抗告人 稲舟茂男

相手方 坪田弘

右当事者間昭和三二年(ラ)第四九〇号競落許可決定に対する抗告事件右事件に付抗告理由書提出すること左の通り

一、本件競売申立の原因たる債権は債務者たる抗告人の全く知らない事で何人かが文書を偽造し登記簿に不正の登記をなし抵当権を設定したものであるので抗告は東京地方裁判所に昭和三一年(ワ)第七五四号登記抹消登記請求訴訟を提起したところ休止満了となつて取下げとなつてしまつたが、抗告人は其経緯については知らなかつた呼出しもなかつた其結果競売にかけられてしまつた然しながら身に覚えのない債権であることに変りはない

かかる場合競売申立に異議申立をなし執行の停止を求むべきであるかも知れないが身に覚えのない借金で官庁が競売をなし手続が出来て居ないから保護出来ないと言うのは憲法違反である競売申立は一定の条件があれば開始されるそれは仕方がないとしても競売を許すのは債務者より異議があれば単に形式上の要件のみを調査せずに実体にまで立至つて許否を決定すべきものである

二、本件競落許可決定は七月二十日になされる予定で其如く公告がしてあつた

然るに七月二十日の調書は審理続行となつており七月二十九日に競落許可決定がなされた

右は公告と異なるものであるからかかる場合競売に附すべきものである

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